憲法改正をめぐる議論では、しばしば次のような前提が置かれている。
「今の憲法では、日本はもう立ち行かない」
「現行憲法が足かせになっている」
だが、この前提自体はどこまで事実なのだろうか。
現行憲法のせいで、日本は本当に“困っている”のか。
今回は、この点を冷静に検証したい。
まず確認すべき「困っている」の中身
「困っている」と一口に言っても、その意味は曖昧だ。
- 経済が成長しないことか
- 少子高齢化が進んでいることか
- 安全保障上の不安か
- 災害対応の遅れか
しかし、これらは本当に憲法が原因なのだろうか。
問題の切り分けをしないまま、「憲法が原因だ」と結論づけるのは、論理の飛躍である。
経済の停滞は憲法の問題なのか
日本経済が長期停滞していることは事実だ。
だが、税制・財政運営・賃金政策・産業政策──
これらはすべて憲法の枠内で決められる政策である。
現行憲法の条文が原因で、
- 積極財政ができない
- 賃上げ政策が取れない
- 産業支援ができない
という事実はない。
経済の問題を憲法に押し付けるのは、政策の失敗から目を逸らす行為ともいえる。
安全保障は「何もできない状態」なのか
改憲論でよく挙げられるのが安全保障だ。
しかし現実を見れば、
- 自衛隊を存在している
- 防衛費は増額されている
- 安保関連法制も整備されている
つまり、現行憲法のもとでも安全保障政策は運用されている。
さらに、事実として次の点も押させておきたい。
現行憲法のもとで、すでに可能になっていること
- 専守防衛の葉にでの武力行使(自衛権の発動)
- ミサイル迎撃(個別的自衛権の範囲)
- 海賊対処やPKOなどの海外派遣(法律に基づく)
- 集団的自衛権の一部行使(2014年の解釈変更)
つまり、「9条があるから何もできない」という説明は、事実とは一致しない。
現行憲法のもとでも、政府は必要と判断した政策を“解釈”と“法律”で拡張してきた。
災害対応は憲法が防げているのか
大規模災害のたびに、「非常時に迅速な対応でできない」という声があがる。
しかし、
- 災害対策基本法
- 自衛隊法
- 地方自治法
これらはすでに整備されており、法制度が“ゼロ”というわけではない。
問題があるとすれば、
- 運用の遅れ
- 司令系統の混乱
- 人員・予算の不足
といった行政の問題であることが多い。
憲法を変えなければ解決できない問題なのかは、慎重に見極める必要がある。
「憲法が悪い」という便利な説明
ここで一つ、重要な視点がある。
「憲法が原因だ」と言えば、政治の責任は曖昧になる。
- 政策の失敗
- 判断の誤り
- 説明不足
こうした問題を、すべて憲法のせいにできてしまうからだ。
だが本当に問われるべきなのは、
- どんな政策を選び
- どんな運用をしてきたのか
という、政治そのものの責任である。
困っているのは「国民」か、「権力」か
現行憲法のもとで、
- 国民の生活が直接立ち行かなくなっている
- 国家が機能停止している
という状況は起きていない。
一方で、
- 権限を拡大したい
- 判断を迅速化したい
- 制約を減らしたい
と考える側にとっては、憲法が「不便」に感じられる場面はあるだろう。
だが、その“不便さ”こそが、憲法が権力を縛っている証拠でもある。
結論──必要なのは改憲か、それとも検証か
現行憲法で日本が「本当に困っている」と言える場面は、具体的には示されていない。
多くの場合、
- 問題は政策
- 原因は運用
- 責任は政治
にある。
それにもかかわらず、憲法改正が先に語られるのは順序が逆だ。
まず必要なのは、
現行憲法のもとで何ができていて、何ができていないのかを事実ベースで検証すること。
その検証なしに、「憲法が悪い」と結論づけるのは、あまりに乱暴である。












