2026年2月8日投開票の第51回衆議院選挙は、自民党が単独で316議席を獲得する歴史的な大勝となりました。
定数465のうち3分の2(310議席)を超える戦後最多の議席数であり、日本維新の会(36議席)と合わせると352議席に達します。
これは、憲法改正の発議や法案の再可決が容易になる「絶対安定多数」を大きく上回る結果です。
一方、最大野党の中道改革連合(立憲民主党+公明党)は49議席と惨敗し、公示前から118議席を失う大打撃となりました。
参政党(15議席)やチームみらい(11議席)など新興勢力の躍進も、今回の選挙の特徴と言えるでしょう。
この圧倒的な政治的安定は、高市早苗首相が掲げる「責任ある積極財政」を強力に後押しすると見られています。
では、日本経済はここから本当に“復活”の道を歩むのでしょうか。
市場の初期反応、政策の方向性、そして家計への影響を整理していきます。
選挙直後の市場反応──株価・円安が加速
選挙結果が確定した直後から、東京市場は「高市トレード」の再燃モードに入りました。
- 日経平均価格 : 週明け2月9日朝に一時5万5000円台を記録(選挙前からの上昇継続)
- ドル円相場 : 一時157円台前半まで円安進行(一部報道では158円目前の水準も)
背景にあるのは、高市政権の財政拡張への期待です。
首相は選挙戦を通じて、「投資と成長の好循環」を掲げ、2026年度でも公債依存度を抑えつつ、AI・半導体・資源確保などの戦略投資や防衛力強化を継続する姿勢を明確にしています。
こうした政策が企業利益を押し上げるとの見方が、株高を後押ししている構図です。
ただし、円安は必ずしも「ホクホク」できる状況ではなく、明確な二面性があります。
高市首相自身も、「円安にはメリット・デメリットがある」「為替変動に強い経済構造をつくる」と述べているように、輸出企業には追い風ですが、輸入物価の上昇で家計負担が増大するリスクも伴うのです。
高市政権の経済政策の柱──責任ある積極財政とは?
高市首相が掲げる「責任ある積極財政」は、成長分野への投資を拡大しつつ、財政規律も維持するという“二兎を追う”アプローチです。
従来の「緊縮か積極財政か」という単純な対立を超える姿勢を打ち出していますが、その実効性には慎重な検証が必要です。
主な柱は以下の通りです。
投資重視
AI・半導体・グリーンエネルギーなど、国際競争が激化する分野への大規模投資を継続。AZEC関連プロジェクトや対米投融資の拡大も視野に入れています。
ただし、こうした投資が実体経済に波及するまでには時間差があり、企業の設備投資や賃金上昇につながるかどうかは不透明です。
財政規律の維持
政府債務残高の対GDP比を中期的に低下させる目標を堅持。2026年度予算では公債依存度を前年度から引き下げる方針を示しました。
一方で、成長投資と財政規律の両立は容易ではなく、景気悪化時にどこまで規律を維持できるかは疑問が残ります。
消費減税の検討
食料品の消費税を2年間ゼロにする案を公約として掲げ、「国民会議」で財源・スケジュールを詰める構えです。
ただし、選挙戦では積極的に触れず、政権内でも慎重論が根強い。
減税が本当に物価高対策として有効なのか、また財政規律と両立するのかについては専門家の評価も割れています。
安保・外交との連動
防衛装備品の輸出規制緩和を進めつつ、非核三原則の維持を明言。年内に安全保障戦略の見直しを予定しています。
経済政策と安保政策を一体で運用する姿勢が強まっていますが、投資の優先順位や財源配分がさらに複雑化する懸念もあります。
これらの政策が計画通り実行されれば、供給力の底上げを通じてGDP成長率の上振れが期待され、一部のエコノミストは「2026年以降の実質GDP成長率が1.5〜2%台に回復する可能性」を指摘しています。
しかし、財源確保、国債市場の安定、物価との両立など、実行段階での課題は多く、期待通りの成果が得られるかどうかは依然として見通しが分かれています。
リスク──円安・インフレ加速と財政懸念
一方で、市場が歓迎ムードに傾くほど、同時に警戒感も強まっています。
足元の株高・円安が「政策期待先行」であることは確かですが、その裏側には無視できないリスクが積み上がりつつあります。
円安の限界
157円~158円台は、日銀・財務省の為替介入が意識される水準です。
さらに、米国財務省も日本の財政拡張による円安圧力を注視しており、1月の為替報告書でも言及がありました。
つまり、これ以上の円安は「政策の自由度」を逆に狭める可能性があります。
インフレ再燃のリスク
コストプッシュ型から、より国内要因の強い“ホームメイド・インフレ”へ移行しつつあります。
人手不足の中で積極財政を続けても、賃金が追いつかなければ実質賃金は再びマイナスに沈み、家計の購買力を奪います。
これは、成長戦略の根幹である「消費の底上げ」と矛盾します。
金利上昇の圧力
財政拡張期待を背景に、長期金利はじわりと上昇しています。
金利が上がれば、企業の資金調達コストが増え、株価の上値を抑える要因になります。
また、国債費(利払い費)が増えれば、財政規律の維持はさらに難しくなります。
こうしたリスクは、下の表が示すように、株価・円安・成長率・財政のいずれも「プラス要因」と「マイナス要因」が常に表裏一体であることを象徴しています。
| 項目 | プラス要因 | マイナス要因 |
|---|---|---|
| 株価 | 政権安定・投資拡大期待 | 金利上昇・財政懸念 |
| 円安 | 輸出企業収益向上 | 輸入物価高・家計圧迫 |
| 成長率 | 積極財政による投資ブースト | インフレ加速・消費減退 |
| 財政 | 税収自然増で持続可能 | 債務残高対GDP比の低下が遅れるリスク |
短期的には追い風に見える指標でも、中期的には逆風に転じる可能性がある。
市場が織り込む“期待”と、経済の“現実”のギャップが広がりすぎれば、後から調整が起きるのは避けられません。
高市政権の積極財政が本当に持続可能なのか、そして円安・インフレ・金利の三つ巴をどう制御するのかが、今後の最大の焦点になります。
まとめ──復活へのカギは「実行力」と「市場の信認」
自民党の圧勝は、高市首相に政策遂行の強い政治的基盤を与えました。
とりわけ賛否が分かれる積極財政を推し進めるうえで、今回の選挙結果は大きな追い風です。
しかし、経済復活のカギを握るのは、歳出拡大そのものではなく、それが真に成長力を高める投資へと結びつくかどうかに尽きます。
市場はすでに「高市トレード」を再開し、株高・円安が進んでいますが、これは期待先行の側面が強い。
円安や金利の動向次第では、相場が反動するリスクも常に抱えています。
国民生活の視点では、手取りの増加(減税・社会保険料負担の軽減)や物価の安定が実感できるかが重要です。
政策がどれほど壮大でも、家計が苦しくなるようでは支持は長続きしません。
政権には、「責任ある」という看板にふさわしい、慎重かつ透明性のある運用が求められます。
高市政権の船出は、一見すると順調に見えますが、真の試金石はこれからです。
日本経済が本当に復活へ向かうのか、それとも期待と現実のギャップが露呈するのか。
その行方を、過度な楽観にも悲観にも傾かず、冷静に見極めていく必要があります。













