「知らなかった…」
あなたはそう呟くかもしれません。
2025年11月21日、在日中国大使館が突如として、国連憲章の「旧敵国条項」を引用し、「中国は安全保障理事会の許可を要することなく、直接軍事行動をとる権利を有する」と発信しました。
この発言は、高市早苗首相の台湾有事に関する答弁を受けてのものです。
旧敵国条項──
初めて耳にしたという日本国民も少ないないでしょう。
しかしながら、この条項こそ、いまの日本が直面しているもっとも危険な法的リスクの一つなのです。
旧敵国条項とは何か──80年前の“法的時限爆弾”
旧敵国条項とは、国連憲章第53条、第77条、第107条に規定された、第二次世界大戦で連合国と戦った国々(日本・ドイツ・イタリア・ハンガリー・ルーマニア・ブルガリア・フィンランド)に対する特別措置を定めた条項です。
その核心は極めてシンプルで、かつ極めて危険です。
つまり、通常の国連憲章では認められていない、「事前承認なしの軍事行動」が、日本を含む旧敵国に対して認められているのです。
ただし、ドイツやイタリアはNATO加盟国として西側陣営に組み込まれ、他の東欧諸国もEU・NATOに加盟しています。
これらを踏まえると、現実的に、この条項を持ち出されるリスクがあるのは、いまや日本だけといえるでしょう。
1945年、国連が設立された当時、これは妥当な措置と考えられました。
戦後の混乱期、日本やドイツが再び軍国主義に走ることを防ぐための“保険”だったのですから。
しかし、2025年の今日。
80年が経った今でも、この条項は国連憲章から削除されておりません。
“死文化”という楽観論の危険性── 「使われない」と「使えない」は全く違う
日本政府の公式見解は一貫しています。
「旧敵国条項は死文化している。国際的なコンセンサスが得られた自公である」
たしかに、1995年の国連総会決議では、155ヵ国の賛成により、「旧敵国条項は時代遅れ」との認識が示されました。
2005年の国連首脳会合でも、全加盟国が「敵国への言及の削除を決意する」との成果文章に合意しました。
しかし、ここに決定的な落とし穴があります。
「死文化」と「削除」は全く異なる。
多くの日本人が誤解していますが、「死文化」と「削除」は、法的に全く異なる概念です。
- 条文は国連憲章にそのまま残っている
- ただし、政治的・慣習的に「使わない」という暗黙の合意がある
- しかし法的には完全に有効
- 状況が変われば、いつでも「使える」
- 条文そのものを憲章から消し去ること
- 法的に完全に消滅する
- 二度と使うことができない
つまり、日本政府がいう「死文化」は、今は使わないという約束に過ぎず、法的な保証は何一つないのです。
政治的約束は破られる
これらの決議は、あくまで「政治的意思の確認」で、法的拘束力はありません。
国連憲章を改正し、条項を正式に削除するには、安全保障理事会の全常任理事国を含む全加盟国の3分の2による批准が必要です。
そして現在に至るまで、この条項は一文字も削除されておりません。
つまり、旧敵国条項は条文として現存し、法的には今でも完全に有効な状態なのです。
そして、政治的約束は状況が変われば破られます。
中国が今回、旧敵国条項を持ち出したことが、まさにそれを証明しています。
石破茂元首相も、2025年の参議院選挙ネット党首討論で、この問題の深刻さを次のように警告しています。
国連改革、つまり敵国条項ってのを軽視してはいけないんですよ。それが残ってるということを私たちよく見なければいけません。(中略)国連改革ができないと、この国土台から揺らぎますよ。
元首相でさえ認識している危険性を、現政権は軽視しているのではないでしょうか。
「死文化」は、安心材料にはなりません。
「削除」だけが、確実な解決策なのです。
条文は現存し、利用可能な現実──中国の“警告”が意味するもの
そして2025年11月21日、中国はこの「死んだはずの条項」を持ち出しました。
これは単なる外交的レトリックではなく、法的根拠として引用されたのです。
実は、この動きには前例があります。
冷戦期、ソ連はしばしば旧敵国条項を持ち出し、西ドイツに対して脅迫的な外交を行っていました。
1968年には、西ドイツの核拡散防止条約加盟を巡り、ソ連が旧敵国条項を理由に攻撃の可能性を示唆したのです。
今回の中国の発言も、同じ文脈にあります。
「条文が残っている以上、我々には使う権利がある」というメッセージなのです。
たしかに、現代国際法では武力行使禁止原則が「強行規範」とされており、旧敵国条項が優先されることは通常ありえません。
しかし、問題はそこにはありません。
条項が存在すること自体が、外交カードとして機能してしまうのです。
- 日本が防衛力を強化すれば、「旧敵国が侵略政策を再現している」と主張できます
- 台湾有事への関与を示唆すれば、「国連憲章違反だ」と非難できます
- 最悪の場合、「我々には特別な権利がある」と武力行使を正当化できます
これが、削除されない条項の持つ、恐ろしい政治的影響力なのです。
高市発言・ミサイル配置・軍拡の危険性──“第二の侵略国”という烙印
日本はいま、非常に危険な道を歩み始めています。
高市首相の「台湾有事」発言
2025年11月7日、高井早苗首相は国会で、台湾有事が「存立危機事態になり得る」と明言。
これは、歴代首相が外交的配慮から避け続けてきた発言です。
存立危機事態とは、日本が集団的自衛権を行使し、自衛隊が米軍と共に武力行使に踏み切る法的根拠となります。
つまり、台湾有事において日本が参戦する可能性を示唆したものです。
中国はこれに激しく反発。
中国外務省のスポークスマンは次のように述べました。
「中国人民の最後の一線に挑戦しようと妄想する者は、必ず中国側の正面からの痛撃を受ける。14億の中国人民が血肉で築き上げた鉄の長城の前で、頭を打ち割られ、血まみれになる」
そして、旧敵国条項が持ち出されたのです。
急速に進むミサイル配備
さらに問題なのは、日本の軍事力増強の実態で、政府は2025年度から、以下のミサイル配備を開始しています。
- 12式地対艦誘導弾能力向上型(射程1000㎞):熊本、静岡など6基地に配備予定
- 島嶼防衛用高速滑空弾(射程2000km以上):開発完了、2026年から納入開始
- トマホーク巡航ミサイル(射程1600㎞):400発を購入、イージス艦に配備
- 米軍の中距離ミサイル「タイフォン」:2025年9月、岩国基地に一時配備
これらのミサイルは、いずれも中国沿岸部を射程に収める「攻撃的兵器」です。
防衛省は、「反撃能力」と呼んでいますが、その実態は他国領土を直接攻撃する敵基地攻撃能力に、ほかなりません。
しかも報道によれば、配備は三段階で進む計画だといいます。
- 第一段階:南西諸島
- 第二段階:富士山周辺
- 第三段階:北海道
つまり、日本全土が「ミサイル基地」と化するのです。
なぜこれが危険なのか?
この状況を、中国の視点から見てみましょう。
80年前、日本は中国大陸を侵略しました。
その日本がいま、中国を射程に収める長距離ミサイルを配備し始め、首相は台湾問題への軍事介入の可能性を示唆しています。
これは、「旧敵国が侵略政策を再現している」という主張の格好の材料ではないでしょうか。
旧敵国条項は、まさにこのような状況を想定して作られたのです。
「旧敵国が再び侵略行動を起こした場合」──その判断基準は曖昧で、会社の余地があります。
そして条項が存在する限り、中国はそれを政治的に利用できます。
最悪の場合、軍事行動の法的根拠として援用することさ可能なのです。
日本が取りべき慎重な姿勢──今こそ「戦略的曖昧さ」を
では、日本はどうすべきなのでしょうか。
第一に、旧敵国条項削除の困難な現実を直視すべき
現在、日本政府は国連改革の文脈で条項削除を訴えていますが、具体的な進展はありません。
その理由は明白です。
国連憲章の改正には、中国とロシアを含む、全常任理事国の賛成が絶対的に必要だからです。
その中国こそが今回、旧敵国条項を政治的に利用している当事者です。
ロシアも冷戦期、西ドイツに対して同じカードを使っていました。
ここに構造的なジレンマがあります──
- 旧敵国条項が削除されてない限り、日本は法的リスクを抱え続ける
- 削除には、その条項を外交カードとして使える中国・ロシアの同意が必要
- 彼らにとっては、条項を残しておく方が有利
つまり、条項の削除は事実上、ほぼ不可能な状態なのです。
“死文化”に頼る危険性
日本政府は、「死文化しているから大丈夫」といいます。
しかし、今回の中国の対応が示したのは、「死文化」は単なる政治的約束に過ぎず、破られる可能性があるという現実です。
- 「削除」されていれば:条項は存在せず、中国は何もいえなかった
- 「死文化」にとどまれば:条項は残り、いつでも政治的に利用できる
この違いは決定的で、削除は不可能。
だからこそ、日本は「条項が残り続ける」前提で、外交・安全保障政策を考えなければなりません。
削除を持って行動するのではなく、削除されないからこそ慎重に行動する──
これが現実的な姿勢なのです。
第二に、挑発的な発言や行動を慎むべき
高市首相はの台湾有事発言は、外交的には大きな失敗でした。
歴代首相が守ってきた「戦略的曖昧さ」を放棄してしまったからです。
台湾海峡の平和と安定が重要であることは言うまでもありません。
しかし、具体的な軍事介入の可能性を明言することは、かえって緊張を高め、中国に旧敵国条項を持ち出す口実を与えてしまします。
いま必要なのは、冷静で慎重な外交です。
特定の軍事シナリオを公言するのではなく、対話による平和的解決を粘り強く追及すべきです。
第三に、ミサイル配備の在り方を再考すべき
長距離ミサイルの配備そのものが悪いわけではありませんが、その規模やスピード、そして配備の仕方に問題があります。
日本全土を「ミサイル基地」化することは、日本を標的にする危険性を高めるだけです。
もし台湾有事が発生した場合、米軍の指揮下で他国領土にミサイルを撃ち込めば、その報復攻撃は日本に向かいます。
しかも自衛隊には、敵基地の正確な位置情報を独自に収集する能力がありません。
米軍頼みの「反撃能力」は事実上、米国の戦争に自動的に巻き込まれる仕組みなのです。
「専守防衛」という基本方針を本当に守るのであれば、他国領土への攻撃能力ではなく、日本を守るための防衛能力に重点を置くべきでしょう。
第四に、国民に対して正直に説明すべき
もっとも重要なのは、これらのリスクを国民に対して正直に説明することです。
政府は「反撃能力」と呼び、「専守防衛に変わりはない」と説明します。
しかし実態は、80年ぶりの大転換です。
- 旧敵国条項という法的リスクが存在すること
- ミサイル配置が中国を刺激し、旧敵国条項の口実を与える可能性があること
- 台湾有事への参戦が、日本への攻撃を招く可能性があること
これらの事実を隠したまま、軍拡を進めることは許されることではなく、国民は真実を知る権利があります。
そして、この国の未来を決める権利もあります。
結論──削除されない条項の恐怖
旧敵国条項は、すでに「死文化している」といわれます。
けれども条文として存在している限り、それは紛れもなく生きています。
歴史が教えるのは、法的な抜け穴は必ず政治的に利用されるということです。
そして、軍事的緊張が高まったとき、「使えるカードは使う」というのが国際政治の冷徹な現実なのです。
いま、日本に必要なのは、勇ましい言葉でも、圧倒的な軍事力でもありません。
必要なのは、冷静な現実認識と、慎重な外交的努力です。
旧敵国条項という「法的時限爆弾」を抱えたまま、挑発的な発言を繰り返し、急速な軍拡を進める──
これほど危険な道はありません。
条項削除の困難さを認識し、不必要な緊張を避ける。
それができて初めて、日本は本当の意味で「戦後」を終えることができるのではないでしょうか。














旧敵国が侵略政策を再現した場合、連合国は国連安全保障理事会の許可なしに、その国に対して武力行使できる