高市早苗首相が打ち出した総額21兆3000億円の経済対策。
「積極財政で国力を強くする」という力強いスローガンとともに、補正予算とガソリン税の暫定税率廃止などの減税効果を含めた大型経済対策が発表されました。
21兆円という数字だけを見れば、確かに大規模です。
しかしながら、その中身を一つひとつ検証していくと、国民全体の暮らしが良くなるとは到底いえない、極めて限定的な内容であることが浮き彫りになります。
今回は、高市首相が掲げる経済対策の3本柱と、その具体的な施策を徹底的に分析し、なぜこの政策では国民生活の改善が期待できないのかを明らかにしていきます。
高市経済対策の3本柱──配分から見てる優先順位
まず、今回の経済対策の全体像を把握しましょう。
21兆3000億円は、以下の3つの柱で構成されています。
- 【第1の柱】:生活の安全保障・物価高への対応(約11.7兆円)
- 【第2の柱】:危機管理投資・成長投資による「強い経済」の実現(約7.2兆円)
- 【第3の柱】:防衛力と外交力の強化(約1.7兆円)
一見すると、生活支援にもっとも多くの予算が割かれているように見えます。
しかしながら、21兆円のうち、生活関連が11.7兆円ということは、実は全体の約55%に過ぎません。
残りの約45%は成長投資や防衛費に回されるのです。
そして最大の問題点としては、この「生活の安全保障」の中身にあります。
第1の柱──「生活支援11.7兆円」の中身を検証する
電気・ガス補助はたった3ヶ月だけ?
政府は2026年1月から3月までの電気・ガス料金補助の継続を打ち出しています。
たしかに冬場の光熱費高騰は家計に響きますから、この支援は助かるでしょう。
しかしながら、なぜ3ヶ月だけなのでしょうか?
4月以降、光熱費が急に安くなる保証はどこにもありません。
むしろ、補助が切れた途端に家計負担が跳ねあがる可能性の方が高いのです。
その場しのぎの一時的な補助では、根本的な物価高対策にはなりません。
必要なのは、エネルギー価格の構造的な安定化や、耐久的な家計支援策です。
子ども一人あたり2万円給付の問題点
子ども一人あたり2万円の給付金も、今回の目玉政策の一つです。
子育て世帯にとっては、たしかにありがたい支援だといえるでしょう。
しかしながら、その一方で子育て世帯以外には一切恩恵がありません。
単身世帯、高齢者世帯、子どものいない夫婦世帯など、国民の大多数が対象外なのです。
しかも2万円という金額は、これまた一時的なもので、継続的な生活改善にはつながりません。
さらにいえば、同じ子育て世帯でも、高所得世帯と低所得世帯で必要性は大きく異なります。
一律給付では、本当に困っている世帯への支援が不十分になる可能性があります。
ガソリン税減税は誰のための政策か?
ガソリン税の暫定税率の廃止により、リッターあたり約25円が耐久的に減税されます。
これは、車を頻繁に使う人にとっては朗報でしょう。
しかしながら、総務省の統計によれば、約2割の世帯が自動車を保有していません。
とくに都市部では、公共交通機関が発達しているため、車を持たない世帯が多数派です。
つまり、最初から5世帯に1世帯は対象外という極めて限定的な施策なのです。
さらに問題なのは、地方在住で車が必須の世帯には恩恵がある一方で、都市部の賃貸住まいで電車通勤する子育て世帯や、車を運転できない高齢者世帯には無関係という点です。
同じ「物価高で困っている国民」でも、恩恵を受ける人と受けない人が明確に分かれてしまうのです。
大型減税の実効性は?
所得税・住民税の定額減税が盛り込まれていますが、これは一定の評価ができる施策といえるでしょう。
なぜなら、特定の層に限定されず、広く国民に恩恵が及ぶからです。
しかしながら、定額減税では高所得者も低所得者も同じ減税額なります。
本来であれば、本当に生活が苦しい低所得にこそ、より手厚い支援が必要なはずです。
また、減税の規模や期間が不明確では、どこまで家計改善につながるのは判断できません。
「おこめ券」は昭和の政策なのか?──中抜き構造の温床
もっとも驚かされるのが、低所得者向けの食料品補助として「おこめ券」の活用が挙げられている点です。
おこめ券自体を否定するつもりはありませんが、令和の事態にこれが最善策なのでしょうか?
現代の困窮世帯が必要としているのは、米だけではありません。
野菜、肉、魚、調味料、日用品など、生活に必要なものは多岐にわたります。
なぜ現金給付や電子マネーでの支援ではなく、使途が限定される「券」なのか?
その答えは、券方式に潜む構造的な問題にあると考えます。
「券」方式に潜む中抜き構造
券を発行するには、「印刷、発行、配布、管理、換金システムの構造」など、膨大な事務作業が発生します。
これらの業務は民間企業に委託されることになり、そこで巨額の「事務費」が発生するわけです。
過去の事例を見てみましょう
- 持続化給付金では、電通やパソナなどへの巨額の委託金が問題になりました
- Go Toキャンペーンでは、事務局運営費だけで数百億円が計上されました
- マイナポイント事業では、システム構築や運営に莫大なコストがかかりました
仮に100億円の予算が組まれたとしても、券の印刷・発行・管理などの「事務費」として10~20億円が中間業者に流れ、実際に国民に届くのは80~90億円程度になってしまう可能性があるのです。
一方、現金給付や電子マネーであれば、既存の銀行口座やマイナンバーカードを活用することで、中間コストをほぼゼロにできます。
100億円の予算ならば、ほぼ100億円が国民に届くのです。
つまり、「券」方式は支援の効率を下げ、予算を目減りさせる一方で、特定の業者に利益をもたらす構造になっているのです。
これは国民への支援というよりも、中間業者への利益供与と言わざるを得ません。
低所得者向けの住宅支援の詳細は?
低所得者向け住宅支援も盛り込まれていますが、その具体的な内容は不明確です。
公営住宅の拡充なのか、家賃補助なのか、住宅ローン減税なのか…
日本では、家賃が収入に占める割合が高く、とくに都市部では深刻な問題です。
本気で住宅問題に取り組むのであれば、もっと大胆で具体的な政策が必要なはずです。
第2の柱──「成長投資7.2兆円」は国民に届くのか?
中小企業支援は本当に使えるのか?
中小企業向けの資金繰り支援が盛り込まれており、それには米国の関税影響対策も含まれています。
これ自体は必要な政策です。
しかしながら、過去の経験から言えることがあります。
それは、補助金や支援金の申請手続きが煩雑かつ条件が厳しく、実際には支援を受けられる企業が限られているという現実です。
日本における企業の99%以上は中小企業であり、雇用の7割を支えています。
しかし、大企業向けの産業政策に予算が偏り、本当に苦しんでいる零細企業や個人事業主には届きにくい構造が、長年にわたり続いているのです。
手続きの簡素化、給付のスピードアップ、条件の大幅緩和がなければ、7.2兆円という数字も「絵に描いた餅」に終わる可能性があります。
赤字企業・医療・福祉への支援は十分か?
赤字企業・医療・福祉分野への即時支援も掲げられています。
これらの分野は、とくにコロナ禍以降、深刻な経営難に直面しているため、支援は急務です。
しかしながら、「即時支援」と言いながら、実際にいつ、どのような形で、どれだけの金額が届くのかが不透明です。
医療・福祉の現場では、低賃金と人手不足が慢性化しています。
一時的な補助金ではなく、診療報酬や介護報酬の抜本的な引き上げ、賃金体系の改善こそが求められているのです。
地域独自支援は自治体次第で格差が広がる
プレミアム商品券やマイナポイント発行などの地域独自の支援策、そして重点支援地方交付金の拡充が盛り込まれています。
しかしながら、これにも大きな問題があります。
自治体の財政力や首長の判断によって、支援の内容や充実度に大きな差が生まれるのです。
財政に余裕のある自治体は手厚い支援が可能ですが、財政難の自治体では最低限の支援しかできません。
結果として、どこに住んでいるかで受けられる支援が変わる「地域格差」が拡大していまうのです。
国の経済対策として、これは大きな欠陥と言わざるを得ません。
しかも、プレミアム商品券も「券」方式である以上、ここでも印刷・発行・管理の中間コストが発生します。
自治体ごとに業者と契約し、それぞれで事務費が計上されるため、全国規模で見れば膨大な予算が中抜きされる構造になっているのです。
デジタル・グリーン投資は誰のため?
デジタル・グリーン投資の推進も、第2の柱に含まれています。
長期的な視点では、これらは確かに重要な投資です。
しかしながら、今まさに食費や光熱費の高騰に苦しんでいる国民にとって、デジタル化やグリーン化の恩恵がいつ届くのでしょうか?
これらの投資が国民の生活改善につながるまでには、数年から十年単位の時間がかかります。
その間、国民は高騰する生活費に耐え続けなければなりません。
これは明らかに、「企業が強くなれば、やがて国民の生活も良くなる」というトリクルダウン理論が透けて見えます。
しかし、この理論は既に破綻しています。
1990年代以降、企業利益は改善しても実質賃金は30年間ほぼ横ばい。
大企業の内部留保は500兆円を超え、日本のGDPに匹敵する規模に膨らみました。
一方で、非正規雇用の拡大と賃金格差は広がり続けています。
結局、この投資は「国民のため」ではなく、「企業のため」なのではないか──
そのように思えます。
第3の柱──「防衛・外交1.7兆円」の優先順位は妥当か?
生活か安全保障か、ではなく配分の問題
防衛装備の増強とサイバー防衛投資、外交・安全保障関連の国際協力強化に約1.7兆円が計上されています。
これは全体の約8%です。
国際情勢が緊迫するなか、防衛力強化の必要性を否定するつもりはありません。
しかしながら、今この瞬間、食費や光熱費の高騰、教育費の負担増に苦しむ国民にとって、最優先事項は何なのか、という視点を忘れてはなりません。
1.7兆円という金額は相対的には小さく見えますが、たとえばこれを全国民の直接給付に回せば、1人あたり約1万3000円の支援になります。
あるいは、消費税率を一定期間引き下げる財源にもなります。
物価高対策として、どちらがより即効性があるかは明白でしょう。
なぜこの経済対策は「限定的」なのか?──3つの構造的問題
【問題点➀】支援が届く対象が極めて限定的
今回の経済対策を見渡すと、恩恵を受けられる国民が極めて限定的であることが分かります。
- 子ども給付金→子育て世帯のみ
- ガソリン税の暫定税率廃止→車の保有世帯のみ
- 電気・ガス補助→3ヶ月だけ
- プレミアム商品券→実施する自治体の住民のみ
- 中小企業支援→申請できる企業のみ
「国民全体」と言いながら、実際には特定の属性、特定の地域、特定の期間に限定された施策の寄せ集めなのです。
単身世帯や高齢者夫婦世帯、車を持たない都市部住民、子どものいない世帯など、国民の大多数が複数の施策から除外されているのが実態です。
【問題点➁】一時的対策ばかりで構造的問題を放置
11.7兆円という数字は大きく見えますが、その大半が一時給付や期間限定の補助金です。
- 電気・ガス補助は3ヶ月だけ
- 子ども給付は2万円の一度きり
- プレミアム商品券も使い切ったら終わり
これでは根本的な生活改善にはつながりません。
物価高が続くなかで本当に必要なのは、消費税の耐久的な減税、社会保険料負担の軽減、最低賃金の大幅引き上げ、教育費・住宅費の構造的な負担軽減など、国民が継続的に「手取りが増えた」「生活が楽になった」と実感できる政策です。
しかし今回の対策には、こうした構造改革の姿勢が全く見られません。
「21兆円」という数字だけが一人歩きし、その場しのぎの対処療法に終始しているのです。
【問題点③】配分バランスが国民生活の実感と乖離
あらためて、21兆円の内訳を見てみましょう。
- 生活支援:11.7兆円(55%)
- 成長投資:7.2兆円(34%)
- 防衛・外交:1.7兆円(8%)
物価高に苦しむ国民の実感からすれば、生活支援が半分程度というのは少なすぎるのではないでしょうか。
しかもその生活支援の中身も、前述のとおり、限定的で一時的なものばかりです。
一方で、成長投資に7.2兆円という巨額が投じられます。
企業を強くすれば、いずれ国民も豊かになるはずという発想ですが、この30年間、その理屈は機能してきませんでした。
今必要なのは、企業への迂回投資ではなく、家計への直接支援です。
国民の可処分所得が増えれば消費が活性化し、それが企業収益を押し上げ、最終的に賃金上昇につながるというボトムアップの好循環こそが求められているのです。
本当に必要な経済対策とは何か?
家計への直接支援を最優先にすべき
日本経済の約6割は個人消費が占めています。
したがって、国民の財布の紐が緩まなければ、どんな経済対策も効果は限定的なのです。
具体的には、以下のような政策が有効であると考えます。
- 消費税率の10%→5%の引き下げ、もしくは廃止
- 社会保険料負担の軽減
- 住民税・所得税の累進性強化と低所得層の負担軽減
- 最低賃金の1500円への引き上げ
- 年金給付額の物価スライド強化
これらは特定の層に限定されず、すべての国民に効果が及ぶ普遍的な政策です。
しかも即効性があり、すぐに家計の可処分所得を増やすことができます。
「券」ではなく現金給付を──中抜きされない支援を
おこめ券やプレミアム商品券など、使途を限定する「券」方式は、行政コストがかかる割に効果が限定的です。
しかも前述のとおり、券の印刷・発行・管理で予算が中間業者に流れ、実際に国民に届く金額が大幅に目減りしてしまうのです。
一方、現金給付や電子マネーでの支援なら中抜きされることなく100%国民に届き、生活の多様なニーズに応えられます。
「無駄遣いされる」という懸念もあるようですが、実際には根拠が薄く、調査でも困窮世帯ほど生活必需品に充てる傾向が確認されています。
既存のインフラ(銀行口座やマイナンバーカード)を活用すれば、迅速かつ低コストで給付が可能です。
それでもなお非効率な「券」方式を採用する理由は、国民のためではなく、中間業者に利益を供与するためと疑われても仕方ありません。
耐久的な制度改革こそが真の経済対策
一時給付をいくら繰り返しても、将来への不安が大きければ国民は貯蓄に回します。
年金制度の持続可能性を示し、医療・介護の将来像を明確にし、教育費の無償化を拡大するなど、社会保障の将来に対する安心感を提供することが、実はもっとも効果的な消費刺激策なのです。
「将来も安心して暮らせる」という確信があれば、国民は貯蓄を取り崩してでも消費します。
つまり、社会保障改革こそが最大の経済対策なのです。
まとめ──「21兆円」の数字に惑わされてはいけない
高市首相が掲げた経済対策の21兆3000億円は、数字だけ見れば確かに大型です。
内容は3本柱で構成されており、生活支援から防衛まで網羅しているように見えます。
しかし、その中身を一つひとつ検証すると、極めて限定的で、国民全体の暮らしが良くなるとは到底言えない内容であることは明らかでしょう。
子ども給付は子育て世帯だけ、ガソリン税の暫定税率廃止は車保有世帯だけ、電気・ガス補助はたったの3ヶ月だけ、おこめ券やプレミアム商品券は、中間業者への利益供与の温床となり、国民に届く金額を目減りさせる。
成長投資に7.2兆円も投じられますが、その恩恵が国民に届くまでには何年もかかり、即効性はありません。
トリクルダウン理論も既に破綻しており、企業を強くしても国民は豊かになりませんでした。
- 支援が届く対象が極めて限定的
- 一時的対策ばかりで構造的問題を放置
- 配分バランスが国民生活の実感と乖離
真の積極財政とは、規模の大きさではなく、国民一人ひとりが「生活が楽になった」と実感できる政策です。
特定の層への限定的な支援ではなく、すべての国民に普遍的に届く、中抜きされない、恒久的な制度改革こそが求められています。
私たち国民も、政府が発表する「21兆円」という数字に惑わされず、その中身と配分、誰に届くのか、そして途中で誰が利益を得ているのかを冷静に見極める目を持つことが大切です。
経済対策の真の成否は、数字の大きさではなく、国民の暮らしが実際に改善されたかどうかで判断されるべきなのです。













